社会起業のような言葉が流行し、企業が新卒生を採用する際にボランティア活動や社会貢献という単語に関係性をもつ経験をもっている学生を重視するといった傾向が強まっているように感じます。学生のうちからボランティア活動に触れることは、国際化していく社会の中で世界を広く知るという意味でも大切です。ただし、それ以上に履歴書に書くためにボランティアを行うような感覚ではなく、本当に自身が納得してボランティア活動に関わることがもっと大切なことでは、と感じることがたまにあります。
近年、パラサイヨでもそういった経験を本当に行いたいと思っている志の高い学生に対して新プロジェクトを発足し参加者を募り、成果として大学生メンバーが急増しているという実態があります。
もともとパラサイヨという団体を立ち上げたのは2000年当時大学生だったメンバーたちです。その後、数年間はその後輩など大学生が中心になって団体を運営してきたのですが、立ち上げメンバーが社会人になるにつれ新しいメンバーも社会人が増えていき2010年すぎには社会人構成比が8割以上になっていました。しかし、2013年より大学生向けに新プロジェクトを立ち上げたことにより、大学生メンバーが毎年増えその活躍の場を広げています。今回はその大学生向けの新プロジェクトについて紹介させていただきます。
「パラサイヨインターンシップ・学生向けCEOプロジェクト」
このプロジェクト名からは、いったい何のプロジェクトなのかわからないと思いますので、その内容を詳しく説明させていただきます。パラサイヨインターンシップというのは、企業のインターンシップと同様にパラサイヨのメンバーになってその活動を仮体験してみようということを意味しており、パラサイヨの活動の中でも1年に1回実施している支援先のフィリピンの児童養護施設への訪問ツアーへ参加して実際活動を体験するプログラムです。
CEOはいわゆる一般的に使用されている最高経営責任者という意味ではなく、Chief Educational Officerの頭文字を文字って作った造語で、フィリピンの児童養護施設の子どもたち向けの教育プログラムを考え実行するメンバーという意味を持っています。年に1回のフィリピンの訪問ツアーにパラサイヨメンバーとして参加し、そこで出会う児童養護施設の子どもたちのために教育プログラムを0から考えて実行し、その効果を検証するプロジェクトを呼びます。その内容は大きく3つのステップにわかれています。
ステップ1「教育プログラムの開発」
プロジェクトに参加した学生は5~6人のチームに分かれて、訪問ツアーの3か月前からどんな教育プログラムを実施するのか検討しはじめます。対象年齢になる子どもたちの年齢やどんな気づきを与えたいのか、どんな場所でどのくらいの時間が必要なのか、自分たち以外のメンバーにどんな協力をお願いするのか、何を事前に購入しておく必要があるのか、当日の進行スケジュールから必要備品一覧までを細かくミーティングを重ねます。
途中で一度中間発表を社会人を中心としたパラサイヨメンバーの前で行い、自由に意見をもらうのですが、その場では、他のメンバーからの自由な意見がフィードバックされるため、改めて方向性を再検討するチームや抜け漏れに気付いて慌てて修正するチームが毎年います。そこから細部の修正や再検討を受けて方向性が決定し、訪問ツアー前に最終発表でこういった形で実施するという内容をパラサイヨメンバー全員に共有します。
一番学生たちが苦労するのは子どもたちにどんな気づきを与えたいのかというポイントのようで、日本とは環境の違うフィリピンにおいてどんな教育プログラムが意味あるものになるのかは、想像力だけでなく異国の教育水準や価値観を調べて知ることから始めなくてはならず毎年その部分では何回もミーティングが重ねられているようです。
ステップ2「現地で教育プログラムの実践」
3か月間で練り上げた教育プログラムをいよいよフィリピンの訪問ツアーで実践することになります。現地での準備時間は限られており、パラサイヨメンバーとしての他のコンテンツへの参加などもあるため、いかにチームワークよく効率よくそして結果を出せるのかを考えて行動しなくてはいけません。そしてたいていの場合、予想外の事件が起きます。準備した備品が足りないことに現地で気づいたり、動くはずの機械が動かなかったり、時間が大幅にかかってしまったり、とトラブルは必ずと言っていいほど発生します。
そんな時にどんな形でそれを乗り越えていくのか、チームワークでどう乗り切るのか、が問われます。教育プログラムに失敗ということはありませんが、自分たちの想像していたものが思い通りにできたのか、あるいはどんな形でトラブルや困難を現場の判断力やとっさの機転で乗り越えて予想以上の結果にたどり着けたのかが身を持って体験できる場所です。
ステップ3「成果の確認と発表」
帰国後には、実際に作った教育プログラムを経て得た結果に対しての振り返りと発表を行います。チームとして、個人として、チームや自分が目的としていた結果が思うように得られたのか、あるいは予想外の気づきがあったのか、まったく逆の結果で反省点ばかりが残ったのかを振り返ります。
そして最終発表会が実施され、50人近いパラサイヨメンバーと特別審査員の前でプレゼンする機会が与えられます。大切なのは成功したのかどうかということではなく、チームや個人で教育プログラムを考える以前、途中、当日、事後でどんな変化があり、それをどういった気づきにしたのかということです。それをチーム発表と個人発表という形で自由に表現し発表することで、このプロジェクトは終了となります。
こういった経験を経て、このプロジェクトに参加したメンバーから翌年もパラサイヨメンバーとして活動したいという学生が生まれ、近年のパラサイヨへの学生メンバーの増加へとつながっています。学生メンバーにとって、ボランティアを実際に身を持って体験できることもそうですが、これほどたくさんの業種や年齢も様々な社会人と知り合うことができ、日々のイベントの運営企画などでそのスキルを実際に見て体験でき個別に指導やアドバイスを受けられる場所というのは新鮮なようです。
筆者自身も学生時代にパラサイヨの活動をはじめたので、10歳も年齢の違う社会人と肩を並べて話ができる場所は貴重であり、ボランティア体験以上の経験を社会人になる前に体験できたことが今に活きているため、これからもたくさんのぜひ多くの学生に体験してほしいと感じています。